口から食べられなくなったら、どうします?
人間の3大欲求は『食欲』『睡眠欲』『性欲』と言われています。
今日は、その中の一つ『食欲』、食べることについてのお話しです。
食事をすること
食事は単に栄養を体に取り込む作業ではありません。
美味しいものを食べる事は、人生の大きな楽しみのひとつではないでしょうか。
そして、何を食べるかだけでなく、『どこで』『誰と』『どんな話をしながら』食べたのかが、楽しみを構成する重要な要素だと思います。
しかし、残念ながら人間はどこかで食べられなくなる時を迎えます。
食べられなくなると生命を維持する事が出来ず、やがて死が訪れます。
これまで人は、そうして亡くなってゆきました。
食べられなくなった時の選択肢
ところが、現在では食べられなくなった時の選択肢が増えました。
色々な方法で、強制的に体に栄養を入れる事が出来るようになったからです。
具体的には次の3つが良く行われています。
- 鼻から胃まで管を入れる方法(経鼻胃管といいます)
- 胃に穴を空けて外から栄養をいれる方法(胃瘻といいます)
- 心臓に近い太い血管に管を入れて、血液に栄養を入れる方法(中心静脈栄養といいます)
それぞれにメリット、デメリットはありますが、本人の食べる意欲に関係なく機械的に栄養を入れる点では同じです。
これらには当然、食べる『楽しみ』はありません。
手術直後などで一時的に食事がとれなくなった場合には中心静脈栄養が行われたり、脳梗塞後で飲み込む力が落ちていても、リハビリで良くなる可能性がある場合には胃瘻を造る事はよくあります。
これらの場合は、元のように口から食べられるようになる可能性が充分にあるので、外から栄養を入れる事に意義があると思います。
しかし、高齢になって、いよいよ食べられなくなった時にはどうでしょうか。
この時点では、飲み込む力だけでなく、消化・吸収する力も落ちています。
この状態で外から栄養を入れても、元のように口から食べられるようにはなりません。
あなたはどう考えます?
あなただったら、食べられなくなった時にどうしてほしいですか?
そのまま自然に亡くなってゆくことを選択しますか?
それとも、外から栄養をいれて少しでも長く生きる選択をしますか?
この問いには正解はありません。どう考えるかは自由なのです。
私たち在宅医は、口から食べられなくなってきても、簡単に諦めないで最期まで何とか食べられる方法はないか、いろいろ試します。しかし、どこかで必ず食べられなくなる時が来ます。
その時、ご本人やご家族の意向を伺います。
その時が来ても慌てないように、健康なうちに一度考えてみるのはいかがでしょう。