城壁に守られた母と娘と洋猫


ある90代女性の方です。年相応に『認知症』もあり、足腰も衰え外来通院が困難になって来た為に、当院での訪問診療が開始となりました。
60代の娘さんが一人で、この女性の面倒をみています。

Caged tabby cat in shelter
今日は、最近、訪問診療に伺うようになった方のお話しです。

初めての訪問

初めて伺って驚いたことは、広い敷地には有刺鉄線付きのフェンスがぐるりと取り囲んでいたことです。更には、至る所に防犯カメラが設置されていて、警備保障会社のセキュリティーもしっかり入っていました。屋敷の玄関は二重ロックが施されていて、その護られた中で、母と娘と洋猫2匹がひそやかに暮らしていました。

ケアマネージャーからの情報では、既に亡くなられた夫は、建設・不動産事業で功を成して、一代で一財産を築いた方でした。そして、その夫の死後、相続問題で子供達が争って裁判沙汰にもなり、結局事業は息子さんが継承して、母と娘さんが遺された家で2人、暮らすようになったようです。「その時以来、家のセキュリティーが厳重になったらしい」とも聞きました。

毎回の診療

毎回、訪問診療に伺う時には、どことなく緊張してしまいます。別に悪いことをしている訳では無いのに、防犯カメラをどうしても意識するのです。
シンと静まった中で、ひそやかに診察を行います。幸いご本人には内科的に大きな問題も無いし、全身状態も落ち着いています。
診察が終わった後には、和やかな雰囲気の中で必ず高級そうなお茶菓子とお茶が出されます。
「診療所の皆さんで食べてくださいね」とパンなどのお土産もいただきます。
基本的には、お茶などの接待はやんわりとお断りするのですが、何となく断りにくい雰囲気があって、毎回ありがたくいただいて帰ります。

この家には洋猫が2匹居て、家の中では放し飼いになっています。自由奔放に走り回ったり、私にも無邪気に甘えじゃれついたりしています。静かな母娘の様子と、対称的な感じがします。

時の流れが違うような、そんな感じのする不思議なお宅です。

色々なお宅に伺うことが出来るのが、在宅医の醍醐味です

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