死んでもいいから家にいる
家にいることにこだわりを持つ人がいます。
今日は、そんな男性のお話です。
脳梗塞、頸髄症性頸椎症、糖尿病を患っている患者さんで、通院困難になり私の勤めているクリニックで、最近在宅医療が始まりました。80代男性で、奥さんとの2人暮らしです。
これまでの経過
脳梗塞、頸髄症によって左上下肢に麻痺と痺れがあり、糖尿病によって腎臓の機能も悪くなっています。
歩行はできずポータブルトイレに移動することがやっとです。排尿は間にあわないため、常時奥さんが尿器で取っています。
低温やけど
寒くなって来たために、奥さんが気をきかせて電気あんかを足元に置きました。それが原因で右踵に低温火傷を起こしてしまいました。熱もあり、血液検査の結果も非常に悪く入院治療が必要な状態でした。
在宅医が「このまま悪くなると死ぬかもしれないので病院で治療しましょう」と言いますが、頑として聞き入れません。仕方なく在宅でできる抗生剤の内服と、訪問看護による傷の手当てを毎日行うことになりました。
死んでもいい
次の日に診療に伺った時も、「低温火傷は思ったより内部に進行していて重症になることが多いこと、糖尿病があるため細菌感染を起こしやすく、全身に菌が回ると命に関わること」を再度説明し入院をすすめましたが拒否されます。
「このまま死んでもいいのですか」と質問したところ、「死んでもいい」と言います。
奥さんにも確認しましたが、「この人は昔からこんな風です。好き勝手なことをやって来たから最後まで好きにさせてください」とのことです。
そこまで意思が固いのであれば、これ以上言うことはできません。
在宅でできる限りのことをすることをお伝えしました。
家のこだわり
末期がんや老衰を迎える方が、治療の見込みがないので家にいたいというのはよくあります。しかし、病院で治療を受ければ早く確実に治ると分かっていても、家にこだわる方も中にはいます。私たち在宅医はベストと思う選択肢を提案しますが、本人の意向と合わないこともあります。最終的には、本人の希望を尊重して、その上でできる限りのサポートをするしかありません。
本人の人生を決定するのは本人自身です。