他人の痛みは分かる?


或る『癌』末期の患者さんのお話しです。
私と同い年アラフィフの方です。

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訪問診療導入まで

病院では、手術や抗がん剤による治療は不可能であると言われて、家に帰ってきました。
近いうちに死が訪れる事を、本人は理解しているようです。
病院からの紹介状には、「緩和ケア病院への転院を勧めたが、家族に拒否されたため、訪問診療をお願いしたい」とありました。

麻薬使用の拒否

初めてお伺いした時には、本人は痛みを訴えており、鎮痛を望んでいました。
麻薬の内服を提案したところ、本人は「飲みたい」と答えましたが、介護している兄弟が、麻薬に対して強い抵抗があり、断固拒否されました。

今回入院中に、たまたまある麻薬を使用した直後に脳梗塞を発症した事があって、それが麻薬拒否の理由でした。

「痛みは今のところ大した事はありません。まだ麻薬を使う段階ではありません、本人は少し痛みに対して大げさに言うところがあります。」と兄弟が言いいます。

「痛みがあるかどうかは、本人にしかわからないことです。麻薬を使うことで、脳梗塞になったり、状態が悪くなる事はありませんので心配はいりませんよ」と何度も説明を繰り返しますが、首を縦に振りません。

本人の痛みは分かります。治療方針を決めるのは家族です」と言い張って聞こうとしません。

末期がんの方の痛みを取るには、麻薬を使う事が常識となっています。麻薬以外の鎮痛剤では、痛みのコントロールが難しいのです。
しかし、兄弟は「諦めたらダメだ」と言って、本人に痛みを我慢させています。
そして、痛みにはおよそ効かない『抗不安薬』を試したいと言います。

結局、どうすることも出来ず、希望の薬を処方することになりました。
本人には辛い思いをさせて申し訳ない気持ちで一杯です。

他人の痛みは本当にわかるのでしょうか?

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