『がん』末期の方との間合い


最近、訪問診療が始まった在宅患者さんのお話しです。

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70歳代男性で、『原発不明癌、腹膜播種、がん性腹膜炎』の方が、これ以上の治療は出来ないとのことで、病院から自宅に戻って来ました。

これまでの経緯

この方は、4月までは普通に生活していて、お腹が張ってきたために、近くの病院を受診したところ、大病院を紹介されて、PETーCTなどの検査の結果、上記の診断となったのでした。
定年まで小・中学校の先生をしていた方で、退職後は、農業をしたり器などの陶芸を趣味で作ったりして生活を楽しんでおられました。意識もハッキリされていて、認知症はありません。

入院中は、お腹も両足もパンパンになるまで腫れていて、動きにくい様子でした。
血液検査では、白血球、赤血球、血小板がどれも極端に減っていました。
何らかの感染が起こったり、消化管からの出血があれば命取りです。

退院前カンファレンスが実施されて、病院ではもはや治療できることが無いことと、本人が自宅に帰りたがっていた為に、急遽2日後の退院と決まりました。
その際、病院主治医には、「退院前にもう治療が出来ないことをハッキリと伝えて下さい。」と、お願いしました。

在宅訪問診療開始後

退院日に訪問診療に伺いました。家は8ヶ月前に新築した2世帯住宅です。2ヶ月前に、三男さん家族との同居が始まったばかりでした。
「家はどうですか?」と聞くと「やっぱり家は良いです。」とのこと。
入院中に内服を始めた医療用麻薬は、退院してからは本人が中止してしまいました。理由は「痛みもしんどさも無いのに、麻薬を飲む必要は無いから。」との事でした。

現在、週2回の頻度で訪問に伺っています。
入院中には、自身で苗を植えたトマトやキュウリなどの畑の様子を見たいと言っていたので、「見ましたか?」と聞いても、「部屋の中から眺めるだけです。」と言う。「外に出てみませんか?」と促しても、乗り気では無い様子です。

本人は否定しますが、しんどさがあるのでは無いかと思います。
麻薬を使うようになったら、自分は終わりだと思っているのかもしれません。
病院の主治医から病状について、どのように聞いているかと伺ってみると、『原発不明癌』であることは理解していても、治療は不可能で、残りの命が短いということは聞いていないようです。

後悔しないように

退院後、薬を調整すると、お腹と足のむくみは、かなり少なくなりました。今ならまだ出来ることがあります。
残った時間を悔いが残らないように過ごすためには、死と向き合うことが必要です。

信頼関係を築きながら、どのように状況を伝えて、死と向き合って貰うのか?
一人一人違う条件の中で、在宅医が常に悩む問題です。

患者との間合いが大切だと思っています

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