介護施設長の経験が介護拒否に
先日、勤務しているクリニックで事例検討会が行われました。
これは主治医が抱えている問題を多職種で検討して、今後の行動に結びつけるために話し合うものです。
今日は、その検討会で取り上げた方のお話しです。
患者背景
この方は80代男性で、介護に関わる行政の仕事を60歳定年まで勤め上げてから、数年間ある介護施設の施設長をしていました。病歴としては30代からの『糖尿病』の悪化により、退職後の数年で視力が低下して、ほぼ失明状態となっています。
昔は人付き合いも良く、趣味のゴルフをしたり奥さんと旅行を楽しんでいたようです。しかし、失明を契機に自室に閉じこもるようになって、外との人間関係を全く拒絶するようになりました。
介護者である奥さんとの関係も希薄です。奥さんは必要最低限の1日3回の食事と1回の部屋の掃除を行うだけで会話も殆どありません。これは奥さん自身も持病があり無理が利かないことと、タバコを嫌悪しているためで、必要以外は部屋に寄りつきません。
現在は、一日中自室でタバコを吸って、テレビを見ながら過ごしています。
本人は「もう死んでもいいけん」と口にします。
明らかに生きがいを失っているようです。
介護サービス拒否とトイレのこだわり
せめて、生活改善の為に、ケアマネや主治医が【ヘルパー利用】や【ショートステイ】などの介護サービスを提案しますが、本人は拒否します。
失明に加えて、一日寝ている状態が長いため、筋力が低下し歩行にはふらつきがあります。
トイレの往復で、いままで何度も転倒を繰り返しています。
このため、ポータブルトイレ設置を勧めますが断固拒否します。
目が見えず、足元がふらついても排泄は必ずトイレで行うことに強いこだわりがあります。
理由
実は、介護サービスの拒否とトイレのこだわりには理由がありました。
この方は施設長として数年勤務した介護施設で、介護の現場を見てきました。
そこでは、皆、オムツで寝かされています。
人間としてではなく「もの」として扱うような介護だったようです。
今から20年近く前の話です。
当時と比較すれば、現在は各種サービスの選択肢も増え、サービスの質も向上していることは間違いありません。
しかし、この方にとっては当時の記憶が焼き付いています。
「施設で介護を受けるのは真っ平ごめん。オムツになったらおしまいだ。」
そんな思いが強く残っています。
この方に、生きる望みを持ってもらうにはどうしたら良いだろうかと話し合われましたが難しい問題です。