夜中の往診で思うこと
訪問診療に伺っている患者さんの容態が、夜間に悪くなって往診に伺うことが良くあります。
私の所属するクリニックでは、休日夜間は担当する主治医では無く、当番の医師が担当します。
それで、当番の時には、普段自分が診ている患者さん以外の往診に伺う事もしばしばあるのですが、毎日申し送りをしていて問題がありそうな患者さんについては情報を共有していますので、それほど困ることはありません。
ある日、往診によばれました。申し送りにはなかった方で、最近訪問診療が始まったかたです。
本日は、夫婦関係についてのお話しです。
往診の患者さん
患者さんは80代男性の方で、定年まで公務員をされていて、退職後も県関係の仕事をしていました。30歳代から『糖尿病』があって、現在は両目を失明しています。日常生活は見守りで生活可能な方です。
奥さんと二人の生活で13年前に購入したお洒落なマンションの高層階に住んでいます。
玄関周りにもお洒落なオブジェが置いてあり、とても綺麗にしています。
奥さんとの会話
往診の連絡は奥さんからで、夕方から熱がありトイレに行って苦しそうだとの事でした。旦那さんの部屋は玄関から入ってすぐのところです。一人、ベッドに横たわっていました。
奥さんとの会話です。
「熱はどれ位ありましたか?」「さあ、計っていませんが高いようです。」
「咳や痰はありますか?」「よくわかりません」
「解熱薬を3時間前に使っていたので、後2時間位経っても熱が下がらない時には再度飲ませて下さい」「これから私は寝ますので無理です」
「肺炎の可能性がありますので、今日は採血して、抗生剤の注射をして帰ります。明日午前中に再度伺いますが、いいですか?」「明日は自分の通院があるので、午前は家に居ません」
監獄?
本人は失明しており、トイレには何とか自分で行けるようですが、奥さんの介助が無ければ、外出も出来ない状態です。
奥さんは旦那さんの部屋には、ほとんど顔を出さないようです。主治医からは「1日1回は旦那さんの様子を見にいって下さい」と言われているとのことです。
旦那さんの部屋の荒れた感じと、通路や玄関のオブジェの華やかさが対称的でした。
夫婦で築いてきた長い生活の中での関係性なのだろうと想像します。
きっと色々なことがあったのでしょう。
「監獄に入れられているようだ…」と診察中にポツリと洩らした本人の言葉が印象的でした。