お家での看取り


最近訪問診療が開始となって、1ヶ月余りで亡くなった方のお話です。

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これまでの経緯

80歳代男性で、特にこれといった病気もなく過ごされてきた方が、2年前の転倒圧迫骨折を契機に歩けなくなり、徐々に食事量が減って来ていました。過去に病院で精査もしましたが、食事がとれない原因ははっきりとはしません。そして、これまで通院していた診療所の通院も困難になってきたため在宅診療が始まりました。

ご本人は元中学校の美術の先生で、奥さんは民生委員や裁判所調停員など活発にされている方です。夫が寝たきりとなってからも、介護と仕事を両立されていました。同居の長男さんも介護には協力的です。

初めての訪問時、ご本人は、お話がなんとかできて食事も少ないながら3食とれていましたが、咽せ込みがあり飲み込む力も随分と弱っていました。言語聴覚士による嚥下評価も行いましたが、ほとんど飲み込む事は困難な状態です。
奥さんの介護負担を軽減するために、清拭や排便コントロール目的で訪問看護を導入し、また介護ベッドのマットは褥瘡予防のために体圧分散マットに変更しました。
延命治療は望まず、点滴や胃瘻もしないということで意思表示をされていました。

3週間後には口から食べたり飲んだりすることが困難となりました。
ご家族には、食べたり飲んだり出来なくなれば残された時間はわずかしかなく、看取りとなることを説明しました。
ご家族も看取りの覚悟をされました。
亡くなるプロセスを記した『看取りのパンフレット』を手渡し、時間のある時に見てもらいました。

私たち在宅医は、自宅での看取りをする場合には、主に次のようなことを説明します。

残された時間について

目安として水分が飲めなくなると1週間位、おしっこが出なくなると2、3日で亡くなります。

亡くなるプロセスについて

血圧が徐々に下がってきて、意識状態は朦朧として呼びかけにわずかに反応する傾眠状態となります。
呼吸回数が徐々に減ってゆき、しばらく止まりまた始まるというような呼吸となり、深いため息をつくようになります。顎を使った呼吸をするようにもなります。
周りから見ているとしんどそうに見えるこれらの呼吸も、ご本人にとっては苦しいわけではありません

亡くなるタイミングについて

ご家族の方が心配で、常にベッドのそばで様子を伺っていることが多いのですが、24時間、片時も離れないわけには行きません。
往々にして人は誰も見ていないわずかな間にひっそりと旅立たれます。
従って、もし息を引き取る瞬間に立ち会うことが出来なかったとしてもそれを悔いる必要はありません。
病院で最期を迎える場合であっても、職員が息を引き取る瞬間を見ているわけではありません。モニターが心停止を知らせて看護師が駆けつけることがほとんどだからです。
亡くなる瞬間を看ていなくていいんですよ

亡くなってから

呼吸が止まったからといって、慌てて連絡しなくても結構です。
ゆっくりご家族でお別れをした後に連絡いただければ結構です。

最期

口から飲めなくなってからは毎日訪問しました。
若い頃はご夫婦で美術館巡りをした話や、奥さんの趣味の面打ちの話などを伺いながら診察しました。
大阪の次男さんが最期に間に合うか心配されていましたが、急遽、お孫さんも連れてご家族で帰って来た翌朝に、静かに息を引きとりました。
奥さんは「やりきりました。」と満足しておられ、次男さんも「第2子懐妊の報告が出来て良かった。」とおっしゃっていました。

出会ってから1ヶ月余りの時間でしたが、静かなお看取りでした。

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