「ビールが飲みたい!」
ある時、急に体の自由が利かずに寝たきりとなって、水も食べ物も与えられないとなったら、あなたはどう思うでしょうか。
今日は、そんな男性のお話しです。
これまでの経緯
その男性は『脳幹梗塞』を発症し、嚥下機能の低下により、看取り目的で急性期病院から転院されてきました。転院2週間前より急激な貧血進行を認めていましたが、家族が希望されなかった為に精査されないままでの転院でした。
当初は、発症1ヶ月の『脳梗塞』である為に、「リハビリを行うことで経口摂取が可能になるのではないか」と期待していました。しかし、言語聴覚士の評価では、トロミをつけた水すら上手く飲み込めない状態で、直後に吸引が必要な程でした。ご家族は【胃ろう】や【中心静脈栄養】などの外部からの栄養注入は希望していません。腕からの点滴は行っていますが、経口摂取が出来ないとなれば、やはりこのまま看取りしか無いのかと思い悩んでいました。
「タール便」出現
当院に来て数日後に、大量の「タール便」がありました。その後も、黒色便が毎日ダラダラと続いています。以前お話ししたように、黒色便は『消化管出血』を疑います。
急速な『貧血』の原因は、恐らく消化管の出血が疑われますが、CT検査や内視鏡検査が出来ない為に詳しいことは分かりません。
「ビールが飲みたい」
『脳梗塞』後の嚥下困難の上に、重度の『貧血』が重なり、いよいよ先が短いと予想されます。
しかし、この方は体の状態の悪さとは対照的に、意識はとてもハッキリしています。そして、会話も成立しています。
洩らす言葉は「水を飲ませて欲しい」「ビールが飲みたい」です。
「誤嚥」の危険を考えるならば水分を与えることは控えるべきですし、ビールなどもってのほかです。
しかし、少量のビールにトロミをつけて飲んでいただくことにしました。もちろんその後は、直ちに吸引を行います。
先が短い時の優先順位
「病人にアルコールを提供するなど言語道断」との考えもあることは承知しています。
将来回復の見込みがあるのであれば、一時的な制限を設けることは必要です。
しかし、残された時間が短い時に制限を設けることは、意味があるとは思えません。「本人・家族の希望を最優先するべきではないか」と考えています。