「歩きにくい、傾く」にはツメが必要
私たち在宅医が訪問するのは、個人のお宅と施設があります。
或る時、施設の職員より「入居者の1人が数日前から立ち上がりが悪くて、歩く時も右に傾くようになっている」と往診依頼がありました。
今日は、『歩きにくい、歩くと傾く』時の対応についてのお話しです。
この方の背景
この方は80代男性の『アルツハイマー型認知症』の方です。その場の受け答えは出来ますが、記憶力が低下しており、時間や場所の感覚は無くなっていて、家族の顔も分かるかどうか、という方です。いつも訪問診療の度にご挨拶しますが、毎回初対面のような対応です。
身体的には大きな問題はなく、施設で穏やかに生活されています。
歩行はふらつきは見られるものの、杖突き歩行が可能です。
往診での様子
往診したところ、テレビの前で甲子園を見ています。どの県の高校かは分かっていないようです。血圧、体温などは特に問題ありません。
「急に歩けなくなった、片方に傾くようになった」と言われると、まず考えるのは脳梗塞や脳出血などの『脳血管障害』を疑います。
この場合は、一般的に血圧が高くなることが多いのですが、血圧が正常だからといって『脳血管障害』を否定することは出来ません。体の麻痺はどうか、声は普通に出ているか等を確認してゆきます。
『脳梗塞』の症状については、以前お話ししたことがありますので参考にして下さい。(顔がゆがむ・腕が下がる・ろれつがまわらない)
さて、身体診察では『脳梗塞』を疑う所見は見当たりません。
薬の影響はどうかと考えましたが、最近追加になった薬はありません。
しかし、今まで大丈夫であった薬が、急に影響を及ぼすことも中にはあるので、疑わしい薬を減薬してみることにしました。
職員のひとこと
救急で搬送するような状態ではないので、様子を見ることにして帰ろうとした時です。
職員が「そういえば、足の爪が赤くなっていて絆創膏を貼っています」と言い出しました。
靴下を脱がせると、右足親指の爪が『巻き爪』になっていて、爪の端が肉に入って赤く腫れていました。悪臭もあります。
『ひょう疽』になっていました。
これは、痛いです。歩けない原因はこれでした。
取りあえず【ニッパー式の爪切り】で食い込んでいる部分の爪を切って、清潔にこまめに洗うように指示しました。
『認知症』の方の注意点
『認知症』の方は、痛いと言わないこともあるので、介護する側は注意が必要です。
入浴の時には、「全身に異常は無いか」を良く観察する必要があります。