患者の一言で医師が育ちます


今日は、『家庭医』になるためにトレーニングしている後期研修の先生方が、どのような学びをしているのかを発表する会に参加してきました。
この会は、2ヶ月毎に開催されており、私自身も普段の在宅の現場とは異なる病院での話が聞けるので、とても勉強になっています。

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今日は、その中で取りあげられたお話しです。

これまでの経過

60代男性。
1年前に都会で、どこに元があるのか分からない『原発不明癌』の脊椎多発転移が見つかって、様々な検査を繰り返しました。結局、『原発のがん』は分からず仕舞いで、治療法もありませんでした。病院では、「やれることはない」と見放されるような扱いを受けたようです。
また、この方は独居暮らしで、随分と前に奥さんと離婚されていて、2人の子ども達とも疎遠になっています。

1ヶ月前に地元の兄弟の勧めがあって、出身地のこの病院へ入院することになりました。
入院日は、介護タクシーに乗って、半日以上かけて都会からやって来ました。

食事は余り摂れなくなっていて、かなり痩せていました。

じっとして動かなければ、痛みも比較的何ともないのですが、動いてしまうと、背中から下半身に強烈な痛みがあります。通常の痛み止めは使われていましたが、【痛みのコントロール】が明らかに不十分でした。

入院後の経過

今回、痛みを抑えるために、医療用麻薬を開始しました。麻薬の使い方としては、定期的に朝夕内服するものと、痛みが出る時に頓服で内服するものとの、2種類の薬を使って痛みを抑えるのが一般的です。

この方の場合には動くと激痛が出てしまうので、あらかじめ動く前に頓服を内服して貰う事により、痛みがかなり抑えられました。

患者の言葉

人は痛みが無くなると、生きる気力が生まれます。「今後のやりたいこと」などの話が出てくるようになりました。

さて、この病院では、『高校生一日医師体験』を毎年行っています。将来医師を目指す高校生に、実際の病院での業務を体験して貰うイベントです。
この患者さんにも、高校生相手にお話しをして貰うことになりました。

「わたしは都会で見放されたが、この病院に来て生き返った。どうか、この病院の先生のようになって欲しい」

と、おっしゃっられたそうです。
この言葉は、研修医の先生の心に強く響きました。

患者の言葉によって、私たち医療者は励まされます。
「患者のためにもっと出来ることはないか」と考えます。
死を前にして、為す術無く見守るしかない状況で、悩み苦しみます。

一つ一つの出会いを大切にして、悩み苦しみながら『家庭医』は育ってゆきます。

患者の言葉は大きな力です

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