怖くて我慢した女性


自分の体に異変を感じた時、「何ともない」と考えたり、「しばらく時間がたてば治る」と思い込むことはありませんか?
誰にも言わずに黙って、様子を観察することはありませんか?
それが深刻な病状であればある程、頭では早く診察を受けた方が良いと分かっていても、悪い結果を聞くことが怖くなることはありませんか?

depressed woman with hands on the head

今日は、そんな思いが強くて受診できなかった女性のお話しです。

初めの症状

右胸に異変を感じ始めました。しこりが徐々に大きくなってゆきました。
次第に痛みが出るようになりました。
右腕が上がらなくなりました。
痛みで夜が寝られなくなりました。

これらの症状があったにも関わらず、誰にも相談出来ずに、ただ一人で悩んでいました。

病院受診

ある日、痛みで身動きが取れなくなっている事に、馴染みのヘルパーが気づきました。
病院受診を勧めて、相談員と一緒に初めて病院を訪れました。
最初に症状が出てから、10ヶ月が経っていました。

病院では「『乳癌』である可能性が非常に高く、【生検(組織の一部をとり顕微鏡で検査するもの)】などの検査が必要です」と言われました。
この【生検】という言葉に、この女性は恐怖心からパニックになってしまいました。
そして、そのまま一切の検査を拒否して、帰宅してしまいました。

訪問診療の開始

病院の担当医から、当院でフォローして欲しいとの依頼があり、訪問診療が始まりました。

初めて伺った時に、これまでの状況を聞いて、「一番困っていることは何か」を尋ねました。「痛みで、夜が寝られないのが辛い」とのことでした。「それならば、【強力な痛み止め】がありますので、まずは試してみませんか」と、提案しました。

「副作用は有りませんか」と、更に質問されたので、「便秘に吐き気や眠気が出ますが、便秘薬や吐き気止めを一緒に使うことによって副作用は減らせます」と答えます。
すると、「吐き気はどうしても嫌です」と拒否されました。
そこで、30分ほど更に色々と説明して、「それならば、一度だけ」と、試してみることになりました。

その夜、内服すると痛みが取れて楽になったのか、急に食欲が出てきました。いつもより沢山の量を急に食べました。
それまでは痛みもあって、食欲が落ちて食事量が減っていたのです。
おそらく急に食べたことが原因だと思われますが、それから直ぐに、一度嘔吐してしまいました。このことから恐怖心が募り、朝夕の【定期的な内服】は絶対に拒否となりました。
ただ、痛い時だけ使う【頓服】だけは飲むことを同意してくれました。
その後は、更に痛みが強くなり、頓服だけでは抑えられなくなっても、朝夕の定期内服が再開出来るまでには1ヶ月を要しました。

このように、薬一つ内服して貰うにも長い説明と説得が必要でした。
基本的に新しい提案は、全て「NO!」です。ゆっくりと何度も説明して、ようやく納得されることが続きます。

診療は週2回ですが、毎回1時間近くかかりました。

その後の経過

『乳癌』であることは確かですが、検査を一切拒否しましたので、どれだけ進行しているか、転移があるかなどは全くわかりません。精査をしていないため、【抗がん剤】の使用も出来ません。

出来る事といえば、痛みのコントロールと、皮膚表面に出てきた腫瘍をきれいに洗ってガーゼで覆うこと位です。処置は【訪問看護】にお願いすることになりました。
この方は、新しい人間関係を築くことが苦手な方でしたので、先ずは2人の看護師さんを専属にして、徐々に慣れて貰いました。
その後は様子を伺いながら【訪問マッサージ】【訪問リハビリ】のサービスを、順次導入してゆきました。

病状は聞きたい?

ただただ「病気のことなどは聞きたくない」「怖い」と言い募ります。
しかし、ことある毎に「病気は良くなりますか?」「どうして腕が動かないのでしょう?」と聞いてくるのです。

おそらく「治りますよ」「良くなりますよ」という返事を期待しての質問なのでしょう。

『乳癌』が進行している結果であるとは言えず、「良くなるといいね」「どうして動かないのかなあ」と答えるしかありませんでした。

最期のとき

こうして、数ヶ月が経ちました。容態は徐々に悪化してゆき、いよいよ自宅での生活が困難となりました。
通常の病院は絶対に嫌ですが、当院の病床なら「入院してもよい」となりました。
数ヶ月の時間で、ある程度の信頼関係が築けたことが入院に繋がりました。

入院後も「怖い」と何度も口にされて、しんどそうにされていました。【麻薬】と【鎮静剤】を使って、痛みや苦痛を取り除きます。

最期は、眠るように亡くなりました。

病気は怖い

この方は、少し特別かも知れません。
しかし、「悪いことは聞きたくない」「現実を直視したくない」と考える方は沢山います。
本人の考え、理解度に合わせた説明が必要です。

ただ、もう少し早く受診していれば、そして検査を拒否しなければ、あるいは結果が変わったかもしれないと思うと残念な気持ちになります。

怖いのは分かりますが、早めの受診が大切です

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