一人介護の奥さんの思い
家に、他人は入れたくありません。
夫の面倒をみられるのは今しかないんです。出来ることは全部したいんです。
女性が夫の面倒をみているのを見るのは辛いのです。
『認知症』の80代男性の訪問診療に伺った折の、奥さんの言葉です。
数年前から『認知症』が進んで来ている夫を、奥さんが【ひとり介護】しています。
3ヶ月ほど前に、いよいよ動けなくなった為に、訪問診療が開始となりました。
訪問診療時の状況
患者さんは、『アルツハイマー型認知症』ですが、興奮や暴言・暴力もなく、ニコニコしています。動きは緩慢で、足腰が弱り、トイレに歩いて行くことが困難となっていました。そして、トイレの失敗も多くなっていました。奥さんが「しっかりしなさい」と叱りながら介護をしています。
介護保険を利用して、週4回のデイサービスに通っていましたが、朝からデイサービスに送り出す事が大変なので中止していました。
まず、朝起こすのが大変で、着替えするにも時間がかかり、食事の介助もして、迎えの車に乗せるまでが一苦労との事でした。
訪問診療が始まって、ご本人に何がしたいかと尋ねると「ステーキが食べたい」と言いました。
毎月1回、遠方に住む娘さんが夜行バスに乗って両親の様子を見に帰ってくるのですが、その度に、レンタカーで馴染みのステーキ屋さんに連れていってくれるのが楽しみでした。
ところが、店の中の移動も大変になってきて、食事にも時間がかかるようになりました。それで「店に迷惑を掛けてしまう」と奥さんが連れて行くのを嫌がって中断していたのです。
デイサービスの再開とヘルパー導入
奥さんに対して、次のようにお話ししました。
一人でこれまでよく頑張ってきましたね。
このまま家で奥さん一人が介護をしていたら、奥さんがまいってしまいます。
奥さんが倒れたら、旦那さんを看る人がいなくなってしまい、2人の生活が出来なくなります。
介護で疲れも溜まってくると、人は優しくなれないものです。
デイサービスを再開し頼れるところは頼って、今の生活を出来るだけ長く続けられるようにしませんか。
また、デイサービス時の朝の支度が大変であれば、その時間にヘルパーさんに来て貰いましょうと提案しました。
この家は通りに面しており、玄関前の大きな3段の階段を下りたら直ぐに道路という造りでした。このため誰かが抱えながら下りなければならず、奥さんだけでは危険もあるので、ヘルパーに入って貰いたいという思いもあっての提案でした。
こうしてデイサービスが週2回のペースで再開となり、朝送り出しのヘルパー利用が始まりました。奥さんの負担も減り、一息つけるだろうと思いました。
そうして1ヶ月が過ぎた頃、ヘルパーは断りたいと奥さんが言い出して、冒頭の発言でした。
奥さんの想い
「他人さまに迷惑を掛けたくない。
他人に家に入って欲しくない。
夫の面倒をみられるのは今しかないので、自分で出来るだけしたい。いよいよ看られなくなった時には、お手伝いをお願いします。」
このように強く訴えておられました。
気づき
やはり、家に他人が入ることは、人によっては相当抵抗があるようです。
他人が間に入ることで冷静になれたり、余裕が生まれることもあると思うのですが、それを理解して貰うには時間とタイミングが必要だと感じています。