突然訪れる死
ある日、突然あなたの家族が自宅で亡くなったら、あなたはどうしますか?
今日は、訪問診療を行なっている方が急に亡くなられた時の、そのご家族のお話です。
背景
Iさんは80代女性で、リウマチ、不整脈など長年いろいろな病気を抱えていました。寝たきりで、娘さんと二人暮らしです。海外に在住の夫は、年に1、2回帰国するくらいです。
大動脈解離
今年に入って食事摂取量が減り、入退院を繰り返していました。
半年前の入院では、入院中に『大動脈解離』を発症しました。『大動脈解離』とは、心臓から出た太い動脈(大動脈)に亀裂が入る病気です。緊急手術を行なっても死亡する危険が高く、通常は激烈な痛みを伴います。
この方の場合は、幸い亀裂ができたところは自然に塞がり、痛みもありませんでした。このために、そのまま様子をみることになりました。
最近の状況
退院後は、一段と体力が衰えていました。食事摂取量も減っています。そんなある日の昼前に、クリニックに娘さんから電話が入ります。
「口から血を吐き、脈拍がありません!」
たまたま近くで訪問診療していた私に、クリニックから「直行してください」との電話が入りました。しかし、その状態で救命するのであれば、救急車を呼ぶしかありません。その旨伝え再度連絡を待つと、既に心臓が止まっており、「時間ができたら死亡確認に来てください」という娘さんからの伝言でした。
娘さんは、元助産師で医療関係者です。
死亡確認
30分ほど後にIさん宅に訪問したところ、娘さんと訪問看護師がIさんの傍にいました。その日の朝は食事を少量摂取していて、普段と変わりなかったようです。
訪問看護師が定期訪問の際に、Iさんの急変を発見しました。娘さんはその時、2階にいましたが異変に気がつかなかったそうです。
1階に駆け下りた時には、もう既に心肺停止だったようです。
医療関係者が二人いたため、慌てることなく冷静に当院へ電話連絡したのでした。私のところへは電話を受けたスタッフが慌ててしまい、間違った情報を伝えて来たのでした。
「大動脈解離があり、突然死があることは理解していました。母は充分生きたと思います」と娘さんが話します。
急死の場合は検死になることもある
今回は、娘さんがたまたま医療関係者であったため、何事もなく自宅看取りとなりましたが、これが普通の方であったらどうでしょうか?
いきなり家族が死んでいるのを発見したら、多くの人がパニックになるでしょう。そして冷静な判断ができず救急車を呼ぶかもしれません。
もし、救急病院到着後に死亡確認されたら、死因が不明なため警察が入り検死になります。
今回のIさんは急死ではありますが、『大動脈解離』があって、いつ破裂するかわからない状況でした。
このように、これまで治療を受けていた病気から死亡した原因が推察される場合には、死亡後に診察を行うことで通常の死亡診断が可能なのです。
訪問診療を受けている方は、救急車を呼ぶ前にまず在宅医に連絡・相談をお願いします。