一人暮らしの限界
いつものクリニックから離れて、別の診療所の勤務に赴いた時のことです。
今日は、そこで出会った、一人暮らしを続ける頑固な80代男性のお話です。
背景
この方は、もともと『肺気腫』があって在宅酸素を導入していますが、本人が嫌がりほとんど使用されずに過ごされていました。
最近はその症状が悪化して、呼吸がしんどくなってきた為にずっと寝て過ごすことが多くなっていて、徐々に一人暮らしが困難になっていました。
近所に住む娘さんとは折り合いが悪くて、これまで余り関与していませんでした。
幸か不幸か、体調悪化に伴ない性格も少し丸くなって来て、娘さんが様子を見たりすることも可能となってきました。
そんな中「今月に入って食事が取れなくなったようです」と娘さんより相談があったので、予定を早めて往診しました。
1週間ほど前から、食事はほとんど食べていません。ヘルパーが1日2回朝夕に入って、お粥などの本人が食べたいものを作るものの、ほとんど手を付けられないままだそうです。
これまでは、ベッド脇に置いてあるポータブルトイレを利用していましたが、その移動も出来なくなり失禁をするようにもなりました。
それで、オムツを着けるようになりました。
これまでも、とても頑固で、色々なサービスを入れようと提案しても、干渉されるのを嫌がって悉く拒否されていました。
また、病院受診も勧めたことがありましたが、中々了解されず、予約を取っても直前にキャンセルしてしまうことが度々でした。
この為に今回も入院の選択肢は難しくて、家で診るとなれば訪問看護に毎日入って貰って点滴をすることが必要かと思案しながらの訪問でした。
訪問時の様子
訪問すると、受け答えはハッキリしています。何が辛いか聞くと、足がしっかりせず動けないのが困ると言います。
同席して貰った娘さんは、病院入院を希望しています。本人に、このまま一人で生活することは難しいと入院を勧めたところ、明確な拒否はありません。
自分でも体調の悪さを自覚されていて、反対する元気も無かったのかもしれません。
それではと、早速病院へ連絡して受け入れをお願いし、紹介状を作成して救急車で向かって貰いました。
一人暮らしの限界
「一人で暮らす」ことは、本人がしっかりして自立している間は問題ありませんが、一度体調が悪化すると困難になります。
寝たきりともなれば、独居生活を維持することはほとんど不可能です。
高齢者の場合には、一旦入院すると前と同じレベルで帰ってくることは少なく、ほとんど生活レベルが下がって帰ってきます。
この方の場合も、今回の食欲低下、全身状態の悪化が一時的であれば良いのですが、退院時には独居生活は無理だと思われます。
今回の入院中に、施設入所の準備をする必要があることを娘さんに伝え、ケアマネージャーにその手続きを取るようにお願いしました。
独居生活には限界があります