施設看取りへの取り組み


『死に場所難民』という言葉を聞いた事がありますか?
これは厚生労働省が発表した推計で、2030年には病院はおろか自宅や施設でも亡くなることの出来ない人の数が40万人出現する事から名付けられたものです。

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病院ではベッド数が削減されています。一方、自宅や施設で亡くなる人の数は中々増えません。
団塊の世代が後期高齢者となるのは2025年で、あと10年から15年すると『死に場所が無い人』が多数出現するだろうと言われています。
この数字はあくまで仮定の話ですが、自宅や施設で最期を迎える人が今後増えて行くことは間違いない所でしょう。
先日、自宅看取りの県別データが発表になりました。従来から言われているとおり、東京を初めとした都市部では自宅看取り率が高く、地方では低い数値となっています。全体としてはまだまだ少ないのが現状です。

私たち在宅医の仕事はご家庭に訪問するケースと、施設に訪問するケースがあります。
施設では、それぞれ理由があって最期の看取りまで行っていないところがあります。
本日は、新たに看取りに向けて取り組んでいる施設のお話しです。

新規の看取り

この施設は『介護付き有料老人ホーム』で、日中は看護師がいるのですが、夜は介護職員だけになります。これまでは介護職員中心であることから、医療行為も出来ないので「看取りは出来ない」と断っていました。

ある時この施設に長年入居していて私たちのクリニックが訪問診療している『認知症』の患者の方に、原因不明の発熱があって精査したところ、進行の早い『癌』が見つかりました。
家族との面談を実施したところ、家族は積極的な治療は望まず、施設での看取りを希望されました。時期も年末で、転院先の確保も困難な状況でした。

話の中で、施設看護師が「最期までこちらで看ましょう。何かあれば夜中でも駆けつけます」と言って、急遽『看取り』方針となりました。

その後、その方の全身状態は悪化して、正月早々に亡くなりました。

看取が可能な背景

看取りに際して、私たちも毎日訪問診療に伺って、ご家族にご様子を報告していました。24時間体制で正月にも訪問しました。

しかし、この看取りが出来たのは、施設職員の介護に対する思いがあったからです。
それまで、施設職員の中には、長年面倒を見てきた人が、状態悪化で病院に入院してそのまま亡くなるのを数多く見てきました。そんな中、「最期までお世話をしたい」と考える人が徐々に増えて、自主的に勉強会に参加する人も出てきていました。そのタイミングでの今回の看取りでした。
この施設では、その後も数名ですが看取りを行っています。

介護職員の熱い思い

施設の職員は大多数が介護職の方です。介護職員の方は、利用者さんに快適に過ごして貰えるように真面目に努力されています。給与面など待遇が悪いと言われながらも、必死に働いています。介護に対する熱い思いを持っているのです。

ただ、医療者ではない為に人の死にどう対応するか教育を受けていませんし、医療行為も行う事ができません。目の前で人が亡くなるという『死』に対する不安に、どう対応したら良いか分からずに悩んでいることも事実です。

施設での看取りのためには、介護職員の方に負担がかかりすぎないように、施設看護師、在宅医がチームを組んで取り組むことが必要です。

介護職員と施設看護師、在宅医のチームワークが『施設看取り』を可能にします

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