『前頭側頭型認知症』について
認知症には『アルツハイマー型』『脳血管障害型』『レビー小体型』の3つが代表的です。
今回はこれらより少し頻度は減りますが、決して稀ではない『前頭側頭認知症』のお話しです。
在宅の患者さんのお話し
その患者さんは、68歳まで自動車整備の仕事をぼつぼつしていていました。仕事を辞めた頃、外から家に帰った時に奥さんが「おかえり」と言ったら、「おかえり」と繰り返すようになりました。奥さんは「変だなあ」と思っていたそうです。何かを話しかけても、同じ言葉を繰り返すのです。
その内にそわそわと常に落ち着きが無くなってきて、外に毎日散歩に出かけるようになりました。あるとき2時間以上帰って来ないため、心配になって方々探したところ、30kmも離れた実家に向かう道で発見されました。道に迷った訳ではありませんでした。
その頃はもう自動車の運転をさせないようにしていました。毎日、奥さんがせかされてドライブに行っていました。徐々に距離が伸びて行きました。ある日、家で奥さんがふと目を離した隙に、車で出かけてしまいました。GPSを身につけていたため位置は把握できましたが、やはり実家に車で帰っていました。迎えに行くと涼しい顔で出迎えたそうです。徐々に会話が無くなってゆき、70歳になると全く無くなりました。
現在72歳です。1ヶ月前には手引き歩行が何とか可能でしたが、もう自分で立つことも出来なくなりました。食事も全介助です。排泄はオムツです。家族のことも、奥さんのことも分からなくなっているようです。
初めは『アルツハイマー型認知症』と言われましたが、3年前に『前頭側頭型認知症』の診断を受けています。
『前頭側頭型認知症』とは
『アルツハイマー型認知症』では記憶を司る海馬の委縮が特徴的ですが、『前頭側頭葉型認知症』では前頭葉と側頭葉の委縮が特徴的な病気です。
『前頭側頭型認知症』はほとんどが65歳以下で発症し、性格変化と社交性の消失が初期からみられ、『アルツハイマー病』で初期からみられるような記憶障害は目立ちません。
『若年性認知症』の中では比較的多い病気です。
症状
次のような症状があらわれると言われています。
- 同じ行動を繰り返す
同じ言葉を何度も繰り返す事が多くなります。またある時間になると家の中を歩きだすというような、決まった行動をとることもあります。この時に、外にも出てしまう場合がありますが、徘徊で迷子になる事は少なく、同じコースを歩いて帰ってきます。また身体を揺すったり、同じ行為をする事が見られることもあります。
- 異常な食関係の行動
同じ物を食べたがり、食欲も異常に旺盛となります。時には夜に冷蔵庫の中の物を食べあさる事があります。
- 集中力や自発性がなくなる
落ち着き無くじっとしていられません。身なりにも気にかけなくなり、だらしなくなります。 「テレビ見る?」「知らん」「これ美味しいでしょう」「知らん」などと、何を言われても、考える事なく即答するようになります。
- 見た物に影響されやすくなりますが、言葉が中々出てきません
近くの人が立つと自分も立ちあがります。じゃんけんのグーに勝つのはパーだとわかっていても、こちらがグーを出したらグー、パーを出したらパーを出します。また相手が「それ取って」などと言うと、「取って」などと相手の言葉をオウム返しします。言葉が中々出てこないため、会話が苦手になり、黙ってしまう場合もあります。
- 反社会的な行動が見られます
ルールを無視した、自分の思うままの行動を取る事が多くなります。
万引きで警察に捕まるケースもありますが、本人には罪悪感はありません。注意されると怒り出し、時には暴力を振るうこともあります。
一般的に比較的進行は遅いと言われていますが、今回の在宅の患者さんのケースでは発症から4年でほとんど寝たきりになっています。
幸い暴力・暴言は無いため、奥さんが最期まで家で面倒をみる覚悟でいます。
治療法は現在のところ見つかっていません。