あなたはオムツを受け入れられますか?


訪問在宅診療が開始となって1週間で亡くなられた方の話です。

90代女性で、これまで既往歴は30年前に胃がんの手術で胃を三分の一切除したくらいで、その他は特にこれといった病気もなく、つい最近まで元気に過ごされていた方です。
早くに離婚されて、息子さんと娘さんの2人のお子さんを、女手ひとつで育てたといいます。
衣料関係のお店を営みながら、不動産の取引で一財産を築いた方で、金銭的にはかなり豊かな生活を送っていたようです。

ここ数年で徐々に食事量は落ちてはいましたが、今年3月に入って急に食事がほとんど取れなくなったとの事で訪問診療が開始になりました。

初めての訪問の時には、難聴はあるものの普通の会話は出来ていましたし、食事摂取も少ないながらも取れていました。
しかしその後、僅か数日で食事が全く取れなくなって、水分も少量飲んだだけで直ぐ嘔吐してしまうようになりました。
意識状態も呼びかけに僅かに反応する程度まで低下して、うつらうつらと寝ている状態になりました。
娘さんが隣に住んでおり、24時間体制で介護に当たっています。
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このような状態にあっても、ご本人はオムツは絶対に嫌といい、寝ながら排尿することは一切ありません。
わずかな力を振り絞り「トイレに連れて行って欲しい。」と切実に訴えます。
娘さん夫婦が抱きかかえて、ベッドの横のポータブルトイレに座らせます。
これを亡くなる1日前までおこなっていました。

介護を受ける中で、個人の尊厳が大きく損われる出来事の一つは、下の世話を受けるようになることです。
この方にとって『トイレに行く事』、『おむつに頼らない事』は、とても大事なことだったのです。
娘さん夫婦もそのことをよく理解されていて、最期まで本当によく付き合っていました。

『個人の尊厳を守る』ことも大事なことなのだとあらためて思いました。
あなたはオムツを受け入れられますか?

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