賢明な選択
患者にとって、ためになる医療を行いたいと医療者は常に考えています。また、患者さん自身も自分の役に立つ医療を選択したいと考えているはずです。
この二つは矛盾しないはずなのですが、現実には上手く噛み合っていないことがあります。
今日は、医療の「賢明な選択」(Choosing Wisely)についてのお話です。
世界的な流れ
この問題は日本だけの話ではなく、世界的規模においても問題となっています。
医療者のプロフェッショナリズムに基づき、患者・市民が本当に役立つ医療を”賢明に選択”できるよう、医療者と患者の対話を促進し、意思決定を共有することを目指して“Chooseing Wiselyキャンペーン”がアメリカから起こり、世界に広がりつつあるのです。
具体例
例えば、明らかに症状から上気道炎(いわゆる風邪)と判断できる場合に、抗生物質を使ったりするようなケースです。
医者側からすると、風邪に抗生剤を選択することを若い頃に先輩から教えられると、その習慣を変えることが困難であったり、患者からの要望に沿う方が抗生物質を出さない説明をするより楽なことから処方されます。
一方、患者側としては抗生物質を以前から処方されていて、よく効くという思い込みがあります。
このような理由から、風邪に抗生物質投与が継続されます。
しかし、抗生物質は細菌感染には効果がありますが、風邪やインフルエンザなどのウイルス感染には全く無効です。
抗生物質の使いすぎによって、細菌が耐性化することが懸念されたり、患者にとっては下痢などの副作用のみ出現したりと、多くの問題点をはらんでいます。また費用も余分にかかることから言っても、良いことはひとつもありません。
対話の必要性
患者の思い込みは、元は医療者が間違った情報を与えたことが原因であったり、最近ではマスコミが誤った報道をしたりコマーシャルを流したりすることに原因があります。例えば、インフルエンザに抗インフルエンザ薬の点滴を推奨するなどがそれにあたります。
医療者は役立つ医療を患者に提供し、患者もまたそれを望んでいるはずです。
現状を解決するには、医療者側は正しい知識を伝え、患者側も自分の思いを伝えながらも冷静に受けられるような対話が必要です。
その他の例
具体的な例は、以下のようなものです。いずれも効果がない、あるいは害の方が多いと言われていますが、よくある光景です。
- 危険な兆候のない腰痛に対するレントゲンやMRI検査
- 軽症の副鼻腔炎や中耳炎に対する抗生物質処方
- 睡眠薬の安易な処方
- 無症状の方のPSA検査
これらは、ほんの一例に過ぎません。
「ためになる医療」で、医者も患者もハッピーになれたらと思います。