いつ帰るのか、それが問題


現在勤務しているのは在宅医療専門クリニックですが、今年から16床の有床診療所になりました。そこでは、『末期がん』の方で、積極的な治療が出来なくなった方が、「自宅に帰る準備期間」として利用することが良くあります。

今日は、その場合に「いつ帰るのか」というお話です。

背景

患者は60代で、『子宮がん』末期の方です。大病院で何度か【抗がん剤治療】を行いましたが、残念ながら効果は見られず、自宅で【緩和ケア】を受けることになりました。
夫は『神経難病』があって施設入所中で、帰宅となれば昼間働いている娘さんとの二人暮らしとなります。

入院中に歩行困難となり、食事もほとんど取れなくなっていました。
直接、病院から自宅退院は困難の為に、一旦うちのクリニックに転院となり、落ち着いてから自宅に戻ることになりました。

本人の希望

ご本人は「娘に迷惑をかけたくないので、食事が取れるようになって、もう少し元気になってから、自分でトイレにも行けるようになってから家に帰りたいのです。」と転院時に希望されていました。

当院転院後の経過

食後に下腹部の痛みが出現すると共に便意があり、少量排便するとその痛みが治まります。食後に腸管が動いた、その刺激による痛みと便意であると考え、麻薬による【疼痛コントロール】を開始しました。その後、痛みは軽減して便の回数も減ってゆきました。また、食事量も徐々に増加していました。
本人には、「家に帰りたい」希望があります。

退院の準備

娘さんと退院に向けた話し合いを持ちました。
娘さんは週に1日か2日、不定期に休みがある仕事です。「休日には、施設の父の面会に行き洗濯物を取って来ます。毎日生活するのに精一杯で、家の中の整理は行き届いていません。母を受け入れる為の、家の整理をするにももうしばらく時間が掛かります」とのことです。
後日、「リハビリスタッフ」と「ケアマネージャー」が家屋調査に伺ったところ、介護ベッドの搬入スペースは確保できるものの、確かにモノを片付けないと、トイレまでの移動も大変そうです。ヘルパーによる手伝いも提案しますが、本人が他人に体を触れられるのを嫌っている為にそれも困難です。

「いつ帰るか」が問題

結局、無理強いも出来ずに、本人と娘さんのペースで家の整理がついてからの退院となる予定です。しかし、一方で『子宮がん』は確実に進行して行きます。現在の比較的「いい時間」はいつまで続くのかわかりません。突然状態が悪化することも充分予想されるのです。
この為、本当に自宅に帰りたいのであれば、「1日でも早い方が良い」のも、また事実です。
こちらとしては患者が家に帰ったその日から直ぐにでも訪問診療には伺い、その他のサービスもいつでも入れる準備をしつつ、「その日が来るのを待っている」状況です。

「いつ帰るのか?今でしょ」とならないところが悩ましいところです

 

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