死んでもいいから家に帰りたい
訪問診療を行っている患者さんが、肺炎など全身状態が一時的に悪化し、家で看るには困難な場合があります。このときは現在の状況を説明し、本人・ご家族の意向を踏まえて病院に搬送することがあります。
その患者さんが、超高齢の場合や末期癌の場合には入院中に状態が急変し、最悪家に帰れないリスクがあります。そのことも患者・家族に十分に説明します。そして、病状が少し安定したら、すぐに家に帰ることが出来るよう病院担当医にお願いをして、その旨を診療情報書にも記載します。
ある末期癌の患者さんが、肺炎を起こし入院しました。この方は、もともと入院生活が嫌で、家に帰りたい強い希望があり、退院後訪問診療が始まった方でした。ただ、その時点では、呼吸状態が悪く奥さんの介護だけでは自宅で療養は困難でしたので、短期間入院し抗生物質治療を行えば早期退院が可能と判断し入院を勧めました。
せいぜい1週間程度で退院と思っていましたが、病院からは連絡が来ません。そこで、お見舞いに病室に伺いました。食欲は減っていましたが、肺炎は殆ど治まっており退院可能な様子でした。本人は「死んでもいいから家に帰りたい」といいます。
そこで主治医とお話しましたが、実は奥さんが家に帰って自分が看る自信がないので転院を希望しているとのことでした。
奥さんとお話し、訪問診療や訪問看護が毎日伺うことができるので何かあっても対応可能であることを伝えた上で、本人が帰りたがっているので家に帰らせたらどうだろうとお勧めしました。
その後も奥さんはなかなか決心がつかず入院が長引きました。そうこうしているうちに一旦落ち着いていた病状が悪化し、食事摂取出来ず、酸素も必要となりました。やはり家に帰らせた方がよいかと奥さんが悩み、家族と話し合って決めることになりました。
数日後に病院で息を引き取りました。
本人の願いを叶えてあげることが出来ず残念な気持ちで一杯になりました。もう少し別のアプローチをしたら、帰すことが出来ただろうかと反省しています。あのときにの「家に帰りたい」の言葉が胸に響きます。